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あの夏のアンタレス
ユウグレノート
ゴトンゴトンと揺れる重い音で、私は目を覚ました。
ぼんやりとモヤがかかる頭を振りながら辺りを見ると、古びた鉄道の客席に座っていることがわかる。窓の外は、一面の群青(ぐんじょう)ときらめく銀色の星たち。
私は、いつか物語で読んだ銀河鉄道に乗っていた。
向かい合わせに置かれた、木製の椅子。シートに張られたビロードの布地はなめらかで上質なものだったが、ひじ掛けはあちこち黒ずんでいて使いこまれた様子を見せている。
そして、私の向かいには——死んだはずの少女、夕夏(ゆうか)がびしょ濡れで座っていた。
「ケンタウルス祭の夜……私を、水に落としたのはだあれ……?」
夕夏は記憶を失っている。犯人は、私たちの中の誰かだという。
濡れた髪のあいだから、夕夏のうつろな瞳が私たちをとらえた。
その時、私たちは直感した。夕夏は、犯人を連れて行こうとしている。
誰かひとりが、この銀河鉄道から降りられないのだ。