あらすじ
白汐療養所は、海沿いの崖の上に建っている古い施設だ。 白い壁。 青い屋根。 潮風で錆びた手すり。 中庭には、誰かが植えた白い花が咲いている。 入所者たちはここで、静かに朝を迎え、静かに夜を待つ。 海を眺める者もいれば、海を怖がる者もいる。 ここでは、泣き声も怒鳴り声も、潮騒に紛れて小さくなる。 遠くで鯨が鳴くことがある。 けれど、その声が人の言葉に聞こえるのは、澪音だけだった。 物語は、海の様子がおかしくなった朝から始まる。
キャラクター
汐待 澪音
しおまち みおん
白汐療養所で暮らしている患者。 海の向こうから鯨の声が聞こえる。 その声は、天気を告げる。 潮の満ち引きを告げる。 時には、人がいなくなる日を告げる。 けれど医師たちは、それを澪音の症状だと言った。 澪音自身も、何度もそう思おうとした。 ただ、鯨の声は一度も外れたことがない。 有栖川 透子だけは、澪音の話を最後まで聞いてくれた。 信じてくれたわけではない。 それでも、否定だけはしなかった。
有栖川 透子
ありすがわ とうこ
白汐療養所で働いている職員。 白汐療養所の看護師、または医師の指示を受けて処置を行う立場の職員である。 透子は、澪音の担当に近い立場だ。 澪音は「鯨の声が聞こえる」と言う。 透子はそれを、心の不調によるものだと考えてきた。 けれど、最近は説明のつかない出来事が続いている。 澪音が「雨が来る」と言えば、予報にない雨が降った。 澪音が「防波堤が折れる」と言えば、その夜に防波堤が崩れた。 澪音が「深い海の魚が陸へ来る」と言えば、翌朝、浜辺には奇妙な魚が打ち上げられていた。 透子はまだ、澪音の声を信じきれない。 けれど、ただの症状だと切り捨てるには、海は近づきすぎている。
制作者のコメント
海辺の療養所 × 幻聴 × 終末感 × 逃避行です。